法学部
思わない、と言ったらどうなるかわからないので、幸一は乾いた笑みを顔に貼り付けた。
「あの……でも、ジェスさんは法学部ですよね? それがどうしてここに?」
「うむ、マナに用があってね。だが一向に見当たらない」
「携帯にかければいいじゃないですか?」
不思議そうに尋ねると、ジェスは腕を組み顔をしかめた。
「あいにく、僕は携帯を持っていないのだ。アルバイトもせず、ボロアパートを借りている身なのでね。余計な出費は可能な限り押さえなければいけないのだ」
「あ、じゃあ、ぼくがかけますよ」
「そうしてくれると、僕としては大変ありがたい。よろしく頼む」
幸一は携帯を取り出すとマナにかける。
「ところで……何の用事なんです?」
「三日後の、大志田大学駅前での清掃についてだ。忌々しい事に、生徒会に申請しなければそういう校外活動が出来ないので」
『クチン!』
くちん? 電話の向こうから聞こえてきた音に、幸一は小首を傾げた。
「あの……ええと、マナさんですよね?」
『あ……幸一君? グス……どうしたの?』
「あ、いや、ひょっとして、風邪ひいてます?」
再び『クチン』と、くしゃみらしき音が届く。
『うん……昨日あんな大変な事があったのに、寝不足だったせいかな、ちょっと風邪ひいちゃって……で、どうしたの?』
「え〜と、ジェスさんが、三日後の清掃活動について、生徒会に活動申請をしたのかと確認を」
『あ、ご、ごめん……ま、まだなの。その』
突然、ジェスが幸一の手から携帯をむしり取った。
「そうか、なら僕が代わりに手続きに行くとしよう。君はゆっくり寝ていたまえ」
それだけ言うとジェスは幸一に携帯を手渡し、一人でズンズン歩き始める。
『幸一君! ジェスさんを追って!』
耳元に当てている訳でもないのに、その声はちゃんと聞こえた。
「え? あ、あのもしもし、マナさん? どうしたんです、そんな慌てて?」