三日月
嫌に肌寒い夜。空には孤独に三日月だけが浮かんでいる。一切の音が聞こえない静けさの中、足元に眼を移す。
熊がいた。血だらけで倒れている。その血が自分にかかっている事を考えればこの熊は自分が倒したらしい、信じられない事に。
そう、ゴミ捨てに行った時に確か熊と遭遇してしまったのだ。
ゴミ捨てには、自分一人では来なかった。他に、誰かいたはず。
不意に視線を感じ、後ろを顧みる。
怯えた顔があった。守ろうとした者の、畏怖の眼があった。自分を拒絶するように激しく首が左右に振られる。
助けを乞うように、手を伸ばす。返答は無く、代わりに悲鳴があがった。聞くに堪えない、苦痛を伴う悲鳴。
「あああああああっ!」
ベッドから毛布を跳ね飛ばし、上体をガバリと起こす。
周りを見てみると、そこは自分の部屋。時計の秒針だけがゆっくり動いていく。額に浮かんだ冷や汗を手の甲で拭う。
……もう一度寝る気には、なれなかった。