火
幸一の顔は火が出そうなほど赤い。それもそうだろう。大の男が、女性に背負われているのでは立場がまるで逆だ。道行く人のほとんどは、マナに背負われた幸一を振り返る。
「あ、あの……マナさん……お願いですから、下ろして貰えませんか?」
「でも腰が抜けてちゃ歩けないでしょう?」
どうも、マナは幸一がどうして恥ずかしがっているのかが、わからないようだ。
それは無理からぬ事だった。告白された経験はあっても、その全てを断っていた『吸血鬼』は、自分を『女性』として認識する機会が一般人より圧倒的に少なかったのだから。
ロザリアは幸一達より、さらに三つ先の駅にアパートを借りているので、そのまま帰った。学校付近のボロアパートに住んでいるジェスは、まだ研究室にいるようだ。結果、必然的にマナが彼を背負う事になった。立てるまで待つという案もあったが、先程乗った九時半の電車が最終なので、しかたあるまい。
「でも、幸一君ってスゴイね。よくあんな状況で冷静になれたね」
もし、一つでも対応を間違えていたら、食い殺されていたかもしれない。
「……冷静、ですか。漢字にすれば、冷たい静けさ……腰抜かしている男に言われても、嬉しくありませんよ……。それにぼくより、マナさんの方がよほど落ち着いていたじゃないですか……ウゥゥ」
寒さの為に出てきたのか、半泣き状態だから出てきたのか定かでない鼻水を啜りながら幸一は嘆息する。
「え? 普通にカッコよかったと思うけど? まさか自分がああやって守られるとは思わなかったし……うん、カッコ良かったよ」
幸一の顔が再び赤らむ。しかしマナに他意は無く、純粋にカッコよかったと思っているのだろう。
「本当……いざという時の、最悪の場合も……考えたからね。君のおかげで、ずいぶん落ち着けたよ」