抵抗
「そ、それと……こちらが抵抗すれば、向こうが逃げ帰る時があります。でも、逆に向かってくるケースもあります。も、もし、抵抗むなしく、誰かが食い殺されるような状況になったら……そ、その人は見殺しにして下さい、お、お願いします」
……それは、最悪の場合には、前に立つ幸一を見捨てろと言っているに等しい。
「そんな……! 君を前に立たせるなんて出来ないよ! ここは私が!」
喋っている間も熊は接近する。静かに、だが確実に。
幸一は目元に空いていた左手をかざす。腰をそっと下ろし、右手に握ったビール瓶をいつでも地面に叩き付けられるようにする。
もう、やり合うしかない。
三人が覚悟を決めた時。
熊の背後から、辺りを照らす車のヘッドライトが注がれた。熊は予想もしなかった場所から眩い光を受けた事で混乱したのか、森の奥に逃げ帰っていく。
車はこちらの状況に気付いていないのか、手前の駐車場に入り停止。ライトも消えた。
「……ええと、助かったみたい、ね」
「そ、そうです、ね」
マナとロザリアが交互にそう言うと、二人のほんの少し前に立っていた幸一を見やる。 ビール瓶を構えていた幸一は、何の、前触れもなくその場にペタンと座り込んだ。
「こ、怖かった……死ぬかと思った……!」
……先程の勇敢な態度はどこにいったのか、呆れるほど情けない声を喉から絞り出している。しかし、無理も無い。あんな状況で冷静に振る舞える方が異常なのだ。あの強固な精神力は、称賛に値する。
「とりあえずこのゴミ、出してこないとね」
マナとロザリアは顔を青ざめさせながらも、ゴミ袋を手に歩き出そうとする。だが、幸一が立ち上がる気配が一向に無い。
「どうしたの?」
怪訝そうに尋ねると、幸一は気弱そうな笑みをフニャリと浮かべた。
「こ、こ、腰が、抜けちゃいました……」